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書院

うつろいの人生

伝記・個人。思想史とセットで調べてみると面白いジャンル。
『永楽帝』『円仁 唐代中国への旅』

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dot 『永楽帝』

檀上寛 / 講談社
--- 覇者の憂鬱 ---

はっきり言おう。私は永楽帝が大がつくほど嫌いなのである。私の専攻した国ベトナムを征服した上に、貴重な資料となるべき行政文書から詩文のたぐいまで没収して、あらかた行方不明にしてしまったのだ。おかげでどれだけ卒論に苦労したか‥‥‥ぶつぶつ。
と、まあ嫌いではあるけれども、大した人物であることには違いない。本書は伝記形式の推測と近年の研究に基づく考証ぎりぎりの線上にある。永楽帝の押し進めた諸政策の原動力を、甥に当たる建文帝を帝位より逐った彼の負い目に求めているのだ。天命を承けた天子であることを永楽帝が一生涯かけて証明しようとしたという説は、この文脈なら納得できる。
しかし、この本を読んで永楽帝が好きになった人はいないぞ。
ごめん。「焚書」は間違い。燃やしたのは大明ではなく、その前の大元ウルスの侵攻軍でした。(2001/09/30 訂正)


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dot 『円仁 唐代中国への旅』

E .O .ライシャワー / 講談社
--- 希望を託された男 ---

円仁。天台宗開祖最澄の弟子にして、第3代天台宗座主。遣唐使に随い、遥か唐まで仏の教えを学んだ僧。唐の仏教の盛行を目の当たりにし、武宗皇帝の仏教弾圧に巻き込まれながらも、帰国して使命を果たした男。そして彼の日記『入唐求法巡礼行記』。
決して華々しくはない地味な日記ですが、その素晴らしい史料的価値をかの有名な駐日大使ライシャワーが紹介した、当時としてはかなり画期的な本です。特に中唐の国内情勢に対する積極的な評価は慧眼。「中唐は徐々に衰亡した時代」という見方は大学レベルではともかく、高校世界史・歴史小説では今でもまだしぶとく残っていますから。
内容は地味、文章も殊更に刺激的でもなく平易、しかしこの本を読むと生きた一人の人間の輪郭が浮かび上がってくる。唐王朝のお役人仕事や長安のうわさ話まで彼の日記を通して知ることができますし、中国仏教を見舞った大弾圧と、日本への布教の望みを託して円仁を匿った人々も彼の目を通して歴史の狭間から立ち現れてきます。
冒険ものとしても大変面白く読める本。


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