問答無用に面白いもの(笑)。
『鳥姫伝』『冒険者たち』『フィーヴァードリーム』
『白馬の王子』『弥勒』
『鳥姫伝』 |
バリー・ヒューガート / 早川書房
--- パラレルチャイナ奇談 ---
実在しない中国世界を舞台に、予期せぬ中毒事故で昏睡状態になった村の子供たちを救うべく、体力はある普通の青年・十牛と、二癖以上は確実な李老師が東奔西走の大活躍をするファンタジー。張り巡らされた伏線が大きな物語に収斂され、幻想的なクライマックスに至る作者の手腕は見事です。キャラクターもそれぞれ個性的。
作者は相当の中国迷で、中国好きには膨大な小ネタが楽しい。明らかに解っていながら、時代考証を正々堂々と無視したキーワードをちりばめています。架空の世界を設定する以上、私はこれを必然と判断しましたが、時代考証が絶対という方は読むべきではないでしょう。なんと言っても唐代に秦が非公式に存続しているのですから。
シーンの切り替えにちょっと癖がありますが、十分人に勧められるファンタジーです。
『霊玉伝』、『八妖伝』と続編三部作が刊行されています。いずれも謎解きと不思議と知的はったりが満載の好著。
『冒険者たち』 |
齋藤惇夫 / 岩波書店
--- さあゆこう仲間たちよ ---
児童文学の名作として名高い一編。「ガンバの大冒険」というタイトルでアニメ化されており、こちらを見ていた人も多いはず。ネズミのガンバが十五匹の仲間たちと共に、イタチのノロイ一族によって全滅寸前の島ネズミを助けにゆく物語。
冒険小説の王道をゆくそのストーリー、登場人物の魅力、平易かつ生き生きとした文章、どれをとっても大人の購読に耐えうるレベルです。否、これだけの小説は現在粗製濫造されている気のあるエンターテイメント系全てを概観してもなかなか無い。本当に面白い!
今回読み返して気が付いたのですが、実際に牙をむいて戦っているシーンより、言葉や舞踏で戦っているシーンの緊張感の方が精彩を放っています。ノロイ(悪役イタチ)もあっけなくやられてしまうし。どちらかといえば、心理戦の趣が強いかな。
実は年甲斐もなく泣いてしまった本。(だけどイカサマはアニメの方が良かったかも‥‥‥)
続編に「グリックの冒険」「ガンバとカワウソの冒険」があります。
『フィーヴァードリーム』 |
上・下
ジョージ.R .R .マーティン / 東京創元社
--- 友情!努力!勝利!! ---
南北戦争前夜の南部アメリカ、蒸気船「フィーヴァードリーム」号を舞台に繰り広げられた、吸血鬼と人間の未来をかけた闘いの物語。
血に飢えた本能を克服し人間と共存しようという年若い吸血鬼ジョシュアと、「フィーヴァードリーム」号船長である醜い中年男アブナーの種族を越えた友情がベタベタしていなくてかっこいい。いかにも支配者然とした敵役ダモンの内面やジョシュアの過去、吸血鬼=夜の種族等、設定がつぼを押さえた上にひとひねりしてあって巧いと感心させられます。
著者のマーティンは最近ファンタジーでヒットを飛ばしたそうです。TRPGからスタートした架空歴史SF《ワイルドカード》シリーズの編者としても有名‥‥‥東京創元社、続刊出してしてくれぇ!!
『白馬の王子』 |
タニス・リー / 早川書房
--- "様"はつきません(笑) ---
タニス・リーはその耽美な文体が苦手なのですけれど、ユーモア系のファンタジーにはにやりとさせられます。これはその「にやり」系ヒロイックファンタジー。
四角と楕円とハート形の月が浮かぶ、素っ頓狂な世界を救う羽目になってしまった王子様。彼は記憶喪失になってしまっていた。何故ここにいるのか、自分の名前さえも思い出せない。
ところが、この悲劇的な設定なはずの王子様、イイ感じに腰の引けている性格が大変よろしい。何かというとすぐに回れ右して逃げようとなさる。白馬とのぼけつっこみ漫才もなかなか。
‥‥あ、"様"をつけてしまった(笑)。
『弥勒』 |
篠田節子 / 講談社
--- 救いはあるのか ---
ヒマラヤ山中の小王国でクーデターが発生した。その国の生み出す美術品を至高のものとする男は、美術品の行方を探るべく密入国を敢行する。これでもかと価値観の逆転が繰り広げられるが、作者は逆転した価値に安住することさえ拒絶する。辛く重い読書を強いられるのに、著者の筆力が本から読者を離さない。その意味でイヤな本。
ひとに何かを深く考えさせる本ではない。しかし読後、日常生活に流れる国際情勢が事実を伝えきっているものかどうか、疑う姿勢を身につけざるを得なくさせる本です。
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