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書院

血沸き肉踊る

どきどきわくわく。あいたたたた。
『ダウンビロウ・ステーション』
『月は地獄だ!』『サラマンダー殲滅』『リバティ・ランドの鐘』
銀河の荒鷲シーフォート
『斉藤家の核弾頭』『日本SF論争史』

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dot 『ダウンビロウ・ステーション』

上・下
C. J. チェリィ / 早川書房
--- 重厚長大 ---

宇宙の覇権をかけた戦争が終局に向かいつつある世界。多くの登場人物の思惑が交錯し、一つの敗戦プロセスの最終局面を描き出す。登場人物たちの動機と行動を追って行くと明確に判るのだが、複数の集団・個人が、生き残るために互いに利用しあい、裏切り、敵対するさまを丹念に追っている。つまり、この物語は目的を異にする複数の集団によるサバイバルものだといえる。
クライマックスに新たな勢力の登場を持ってきて、それを梃子に大団円を迎えるやり方もご都合主義ではなく、それまでの記述から無理なく引き出されたものである。おちゃらけもせず、安易な悲惨にも流れず、破綻のない見事な物語である。
人によっては冗長に感じられるので長い物語が苦手な人には勧められない。この作風が現在の流行ではないのが悔やまれるところだ。
個人的に一言(笑)。シグニー艦長、「お姉さま」と呼ばせてください〜!


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dot 『月は地獄だ!』

J.W.キャンベルJr. / 早川書房
--- JRワゴンセールで100円。 ---

初の月探検で遭難してしまった人々のサバイバルもの。なんだかすごくトントン拍子に物事が進んでゆくので、それで作品が最後まで保つの? と思ったものですが、ちゃんと絶体絶命のピンチがあります。
技術に対する素朴なまでの信頼が作品にみなぎっているので新鮮に感じました。ついでにフロンティア・スピリッツもみなぎってます。その頃のアメリカの心性がそのままあらわれているのでしょうね。
SF史上の名編集者キャンベルによる1950年の作品で、無論1971年のアポロ月面着陸以前の本。


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dot 『サラマンダー殲滅』

上・下
梶尾真治 / 朝日ソノラマ
--- 飛びナメCG化希望 ---

梶尾真治のSFは温暖湿潤気候だなーと実感した一編。
テロ組織に夫と子供の命を奪われた女の復讐譚、だったら簡単なのだけれど、SFの醍醐味でそうは問屋が卸さない。これだけ救いようのない結末も珍しいかな。
三部よりなるストーリーは、真ん中の話「空間溶融」を前か後ろの話に繰り込んだ方がテンポよくまとまったような気がする。とはいえ日本SF大賞受賞作だけあって無類に面白いことは確か。
ちなみに私は同著者の「未踏惑星キー・ラーゴ」が好きです。


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dot 『リバティ・ランドの鐘』

上・下
秋山完 / 朝日ソノラマ
--- 血沸き肉踊るかわりに‥‥ ---

とある惑星に軍事国家が侵攻を開始し、その衛星軌道上に浮かぶ移動遊園地で逃げ遅れた客2000人を守るため、遊園地のロボットと3人の人間が精鋭部隊に立ち向かう。SFマガジン別冊で紹介されたとおり、ホーム・アローンなストーリー。「ロボット三原則」に則って戦い、兎に鳥、海賊に魔女に、妖精とトランプ、CGアニメ美少女らが百万単位で(しかも、淡々と)破壊されてゆく無惨な有様と、「殺されてゆく」ロボットに対する人間の感情の動きが哀切に描写されている。
ほのぼのを期待してはいけない。人間が創り出したロボットという存在に対して人間に何ができるかを描いたSFの佳品。
涙もろい人はハンカチの用意を。


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dot 銀河の荒鷲シーフォート

『大いなる旅立ち』上・下
『チャレンジャーの死闘』上・下
『激闘ホープ・ネーション!』上・下
『決戦! 太陽系戦域』上・下
デイヴィッド・ファインタック / 早川書房
--- 不幸の大津波 ---

SF界に不幸は数あれど、これだけ運が強くて、これだけ不幸な主人公は彼くらいでしょう。栄誉に彩られてもプライベートではもうどん底状態で、しかも自ら墓穴を掘るタイプ。しかも周囲も片っ端から不幸になってゆく。落ち込めば周囲に当たり散らし、そして再び自己嫌悪を繰り返す主人公に何度心で罵ったことか。まぁ、この主人公と表紙を心理的に乗り越えれば大変面白いです。波瀾万丈で、きっちり組んだプロットはまずまずの出来ですが、結末には好き嫌いは分かれるかも。
確信犯的に妄想系メディア少女を狙ったあの表紙(とその内容)は確かにハヤカワSF文庫の知名度を上げる一助となったでしょう。だが、男性は大変買い難いに違いない。一人だけ買った野郎を知っているが、やはりあの表紙には退いたようだ。実は私も一ヶ月間も買おうか迷った。
私が買った最大の理由は翻訳者が通称"野田大元帥"こと野田昌宏だったこと。初めてSFどっぷりモードに私を浸からせてくれた"キャプテン・フューチャー"という昔懐かしのシリーズを翻訳した方だったのだ。


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dot 『斉藤家の核弾頭』

篠田節子 / 朝日文庫
--- イヤな未来のおはなし ---

21世紀も後半、超管理国家へと変貌した日本。国民は総階級制となり、コンピュータによって有用度を判定される未来。女は「母」であることのみを求められ、有用でない人間の尊厳が蹂躙される、そんな時代の家族の物語。
コンピュータの進出によって失職した家長・斉藤総一郎をはじめとする斉藤家が、ある地域への移住を求められる。その真意が非有用国民を実験動物としてしか認めず、危険地域で生活する彼らの生体記録採取にあることを知った総一郎は、家族を守るため、古い放射性廃棄物をプルトニウム爆弾に改造し、国家に反旗を翻した。
だが総一郎という人物は大義にやたら弱く、家族でさえ役割という「仮面」でしか見られない有能だけど困った人物だった。この事件の顛末を6人目の子供を妊娠中の妻美和子の視点で語られる。
この作者は「女たちのジハード」で直木賞を受賞。でもどちらかというと日常の中の非日常と言うよりは、非日常の中の日常を書かせたらピカイチの作家です。


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dot 『日本SF論争史』

巽孝之 / 勁草書房
--- 血沸き肉踊る論争の世界へようこそ ---

日本SF界では戦後から現在まで、名だたる編集者がファンが翻訳家が、作家が高校生までもがSFの諸相について連綿と激論を戦わせてきた‥‥ま、要するにSFをだしにしたケンカがまるで活火山のように頻発していたのです。で、そのケンカの成果ともいえる論文・エッセイが一同に会しているのが本書。掲載論文の作者も安部公房、小松左京に始まり、荒巻義雄、筒井康隆、笠井潔、大原まり子まで多士済々。
SFの意義や意味の考察・主張に始まり、SF作家論、ポストモダン、フェミニズム、SFファン論、海外SFの影響と日本SFの独自性、サブカルチャーやミステリなど他ジャンルとの関係等々、話題はてんこ盛り。よくぞまぁ語ったもの。その時点での社会状況や思想と密接に関係している論文が多いので、現代日本史の知識はある程度あった方がいいでしょう。
感想は一言「他人のケンカは面白い」。この本を読んでみるとよくあるWeb掲示板のケンカがまだテクニックや作法の面で発展途上にあることがよく分かります(笑)。


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