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書院

時の栄光と憂愁

最強の敵、それは"時"。
『火星年代記』、宇宙年代記、『都市』

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dot 『火星年代記』

レイ・ブラッドベリ / 早川書房
--- 28年間の年代記 ---

SFにおける年代記ものの筆頭に挙げられる金字塔です。目次を見たときは「なんてせっかちな作者なんだ」と呆れ半分でした。地球の人間が火星にたどりつき、後続が万単位で押し寄せ、火星人とその文化を消し去り、地球で戦争が起き、人間が火星を後にするまでが、たった7年の間の出来事として描き出されます。そしてエピローグは約20年後。いくら1946年の作品とはいえ、短すぎます。その僅かな期間に展開される珠玉といってもいい短編群は十分な年月をかけて語られるに足るものなのに、何故 ?
そこで私は「作者が仕掛けたトリック」説を捻り出してみました。この作品のあまりにも短い期間設定は、まるで長い年月に穏やかな文明を築き上げてきた火星人が、猛烈な勢いで科学を発達させた地球人を見ているかのような気分を、読者に疑似体験してもらうためである、と。
まぁ、こんな感じで様々に読み解ける上質の短編集です。オマージュ、本歌取りなども数多く発表されており、これらを楽しむ上でも一度は読んでおいた方が得な本ですね。


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dot 宇宙年代記

『宇宙救助隊二一八〇年』『辺境五三二〇年』
光瀬龍 / 角川春樹事務所
--- そして時代は過ぎ去る ---

日本SF史に欠かすことの出来ない作家、光瀬龍初期の代表作をまとめて文庫化したもの。
驚くほど古く感じる語句が少ないことに驚いた。多分意図的に時代を感じさせる単語を排除した結果だと思うが、同時におそらくどんな言葉を使用してさえも、この普遍的な人間の物語の価値は減じることがないはず。
こういう話は好み。だが後味が無常至極なので要注意。短編集。


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dot 『都市』

C .D .シマック / 早川書房
--- 犬たちは語る ---

人類は都市を棄て、宇宙へ広がり、そして姿を消した。遙か未来、残された犬たちは独自の文明を進化させていた。人間は既に伝説の陽炎にすぎない。
とまあ、犬たちによる人間伝説集の体裁をした本。人間とその世界の滅亡過程を年代記風に記し、人間への追憶が悠久の時を遡り、我々に不思議な郷愁を与えてくれる。3つの時間軸をもつ凝った作品。


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